村中甘泉堂

村中甘泉堂の
羽二重餅

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『羽二重餅』の由来 ― 明治〜大正期、同時多発的に誕生

『羽二重餅』の由来である「羽二重」とは、撚りのない経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を使った平織りの絹織物のこと。柔らかな肌触りと上品な光沢が特徴です。福井では明治初期ごろから生産が本格化し、20世紀初頭には全国輸出額の60%を占めるほどの産地になりました。

しかし、そういった「ものづくり」の地でありながら、一般の人たちが上質の羽二重を目にする機会はほとんどなかったそうです。その大半は国内の大都市、あるいは海外に向けて流れていったらしいですね。

土地の名産品でありながら、手土産として持っていくこともできない様子を、当時の菓子屋さんは見ていたのでしょう。『羽二重餅』が考え出された背景には、「名産品の羽二重を彷彿とさせるような土産物を」という、福井の人たちの思いがあったようです。聞くところによると、ほぼ同時期に、福井の複数の菓子屋さんから同時多発的に販売が始まったそうです。

甘泉堂のこだわり ― 産地指定の福井米を100%使用

『羽二重餅』は、米・砂糖・水飴というたった三つの材料で作る菓子。それだけに、材料への心くばりがそのまま風味や食感を左右します。当店の『羽二重餅』のこだわりは「100%福井米」を基本的に貫いていること。しかも、山沿いで水のきれいな、大野市・勝山市・池田町産の米を産地指定で仕入れるようにしています。

最近は生活者の健康志向もあって、羽二重餅もずいぶんと「甘さ控えめ」となりました。しかし、甘さとみずみずしさには実は深い関係があります。必要以上に甘みをおさえてみずみずしさを失っては本末転倒ですから、「甘みをおさえつつ水分も保持する」技術を追い求めることが『羽二重餅』作りには求められるんです。

『羽二重餅』の作り方 ― 「一晩寝かせて二枚重ね」が特徴

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    1.福井県産100%の餅米を細かく搗(つ)いて粉状にします。

    粒の細かさが食感に反映されるのでとにかく細かく。「石臼で挽いた方が、搗くより細かくなるのでは?」と思われがちですが実はそうじゃないんですよ。

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    2.餅粉を蒸して餅状にしたら、大釜に移してじっくりと練り上げていきます。

    練れば練るほど餅にコシが出る。当店で使っている大釜はキャリア50年のベテラン選手。新しい大釜もあるのですが、ベテランが練り上げる餅の仕上がりには及びません。

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    3.練り上げながら砂糖も加えていきます。

    加えるといってもドサドサっと入れるようなことはせず、シロップにして糸状にたらしながら少しずつ。『羽二重餅』の食感や、甘みを均等に行き渡らせることを考えての結果です。

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    4.出来上がり

    一口サイズに切り分けた餅を二枚重ねにして、トリ粉が飛び散らない「奉書折り」で包んで出来上がりです。

おいしい食べ方 ― 冷蔵は禁物、常温保存で。

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私が考える「『羽二重餅』の食べ頃」は、粘りとコシのバランスが絶妙なタイミングとなる、製造日翌日からの数日間。通販のお客様の場合できたてをお送りしていますから、お手元に届いた日がいい具合に食べ頃なんです。

砂糖を含んだ餅なので通常の餅よりは老化は遅いのですが、「その日のうちには食べきれない」ということなら常温保存がおすすめです。というのも、餅でんぷんの主成分であるアミノペクチンは、0℃〜10℃で老化がいちばん進むから。常温での保存が心配なら、むしろ凍らせてしまった方がいいですよ。

食べるときも常温か、ちょっと冷やす程度で。3時間くらいの冷蔵なら品質に影響ありませんから、夏場は冷やして召し上がっていただいてもなかなか美味です。普通の丸餅や角餅なら「焼く」「煮る」という食べ方もありますが『羽二重餅』に限ってはちょっと……(笑) 基本的にはお茶請けとして召し上がっていただければと思いますが、冷やしぜんざいに入れたり、ホットケーキに挟んだりというアレンジも面白いですね。

世に出てから一世紀以上を経た福井の羽二重餅。材料がシンプルなぶん、製造技術としてはほぼ完成の域に達していると言っていいでしょう。でも、トレハロースなど、新素材の出現で生活者のニーズに応えた商品が作れるようになったように、まだまだ研究を重ねる余地はあると考えています。技術の修練と美味への探究を続け、餅の歯切れ良さや食感の向上を図っていきたいです。